舞台は14世紀のイングランド,英仏が百年戦争を戦い,十字軍の船が運んだ黒死病(ペスト)がヨーロッパに蔓延しわすか3,4年でヨーロッパの人口を半減させ,まだ魔女裁判が行われていた時代。ジャンヌ・ダルクが火刑に処せられたのもこの時代でした。
そんな激動の時代を貴族,騎士,神父,尼僧,商人,職人,農民(農奴)といった各階層の人々はどう戦い,生きたのか。様々な階層の目を通して描いた迫力のあるドラマで読むのが楽しみになります。
華やかな騎士道を追求し,戦争と権力争いを繰り広げる貴族,騎士。経済力と政治力をつけ,修道院の諮問機関にすぎなかったギルドを町の議決機関にしてしまったメンバーの商人,職人。そして黒死病によって働き手が減少した人手不足を逆手に自分たちに有利な「契約」を領主と結び農奴の立場から自由農民の地位を得ていく農民たち。
それぞれの立場で懸命に生きる姿を読むうちに,描かれた中世社会に入り込んでしまったような錯覚さえ覚えます。歴史の専門書からは伝わらない人間ドラマが描かれています。
原書で読むと1,200ページの長編です。中世が舞台なので時々なじみのない単語が出てきますが,先を読み進めていけば辞書なしでも理解できます。
日本語訳は「大聖堂―果てしなき世界」という題名で,(上中下刊がソフトバンク文庫から出版されています。
実はこの“World without End” はその前に同じ作家が書いた“The Pillars of the Earth”(英文983 ページ)という小説の続編,というよりその登場人物たちの子孫たちの物語にあたります。こちらは12世紀当時のイングランドを“World without End”と同様に各階層から見る形式で描かれています。これも迫力と歴史考証に富んだ本ですが,残念ながら日本語訳は出版されていないようです。
The Pillars of Earthから200年後のキングスビリッジで、子孫たちが繰り広げる20数年間のドラマ。落ちぶれたナイトの二人の子供、建築家の道を歩むマーチン、騎士への道を歩む弟のラルフ、裕福な商人の娘カリス、貧農の娘グウェンダの4人を中心とする人間模様や葛藤、協力と対立、生死を描いています。
冒頭に子供の時の4人が偶然大変な経験をするところから始まりますが、本格的な展開は大人になってからです。基本的に善人と悪人との対立という形をとり、うまく事が運んでいると思えば次の障害が現れ、もどかしさを感じながら展開していきます。因果応報という感じで最終的には納得できる形でストーリーは終わります。
宗教、建築等の見慣れない単語が出てきますが、基本的に文章が平易で、あまり気にせずに読み進むことができました。
障害が同じパターンで出てくるような、「またか。」という感じがするところもありますが、前作を読んだ人なら、読んで損はない小説と思います。
ところで、小説中に出てくるペストに対する瀉血という治療は、1600年前後のロンドンを舞台にしたShakespeare's Scribeという小説にも出てきます。そういった治療が何百年も行われていたとすれば、本当に暗黒時代だったんだなと思いますが、真偽の程はよく分かりません。
但し、前作のThe Pillars of the Earthと比べると途中で若干だれる部分があったのも事実。その要因は、前作では主人公の一人一人に生涯をかけた理想や目的があり、それを成し遂げんと苦闘する姿に共感し感情移入することができたが、本作ではその骨格となる主題がやや弱く、人間の愛憎や愛欲に焦点が当たりすぎていたため、少し引いてしまう部分があったからだと思う。