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〓東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)

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  • メーカー: 岩波書店
  • JAN/ISBN: 9784003104156
  • 定価: ¥ 483
  • 売上ランキング: 42923 位
  • ★★★★

カスタマーレビュー

饐えた国、日本
★★★★★2010-03-05
 例に漏れず、書籍のPDF化に励んでいると、こんな本が見つかった。荷風もまさかパソコンの画面上で読まれるとは思ってもいなかっただろう。大掃除をしている時に、畳の下に古新聞があり、その記事に目が行って、しばし手を休めているといった風情である。
 この本に出てくる言葉で気がつくのは、ドブの匂い、蚊音、西日などであるが、いずれにしても死語の類か。大震災で江戸の風情はなくなり、新興国家としての日本の隠れた部分を表象している文学とでも言えようか。それにしても、日本とは、かなり饐えた国だったのだ納得させられる本ではある。
老いらくの恋
★★★★2010-02-13
 この高名な小説を今回初めて読んだ。読後の最初の印象は、意外に呆気ないストーリーだというもの。
 本文中にも、解説にも明記されていないので正確な呼び名が分からないが、いわゆる「娼妓」である雪子との偶然の出会いから別れまでの数ヶ月のふれあいを、作家である私の視点から、昭和初期の下町の風俗を背景に描いているのだが、大した事件があるのでもなく、また交際をめぐる心の葛藤がある訳でもなく、実に淡々とした小説である。しかし、読後の味わいは中々に深い。
 この味わいは、老境にある作家の若い芸妓との淡いプラトニックな恋愛、というテーマによるのだろうか?突然風のように消えた雪子が、読んでいる私にも愛おしく思えてくる。この気持ちは何なのか?それは今では失われてしまった、否当時ですら薄れて行きつつあった、震災前の花街向島界隈の風情なのではないだろうか?雪子はその懐かしい当時の風俗の象徴とも言えよう。
 それを思えば、併載されている『作後贅言』で、或る翁との思い出に託して記された震災前後の東京の風俗の描写は、本編の味わいをいや増しにする好編と言えよう。
 結城信一のエッセイによれば、昭和十一年に発表されたこの新聞小説は当時巷の大評判を呼び、新進気鋭の横光利一などの小説を圧して、老大家健在なりを大いにアピールしたと言う話だ(H21.9.19)。
わたくしはほとんど活動写真を見に行ったことがない
★★★★★2009-04-09
永井荷風と言えば、どうしたってこの作品が頭に挙がる。

「わたくしはほとんど活動写真を見に行ったことがない。」

この最初の一節に私は心をひかれた。
小説というものは未だ言葉の結ばれてあるものと信じていた少年時代、私にはこの一節こそが必要であったのだと思う。
現代的なものを忌むための一節。
活動写真というハイカラな文化は、荷風散人にとって、呪詛の対象でしかない。
厭世的な荷風の一節は、美しい女性・お雪との出会いと別れをともに可能にする。
決して、出会いだけではなく、別れだけではない。
それら二つをあわせもつ効果が、この一節には表れている。
私も現代的なものが嫌で、早く昔に帰りたいと思っていた。
その頃に出会った本作。
小説を読み始めた私には理解できない文体も少なくなかったが、当時もっとも記憶に残った一冊となった。
古き良き時代の情緒
★★★★2007-12-24
荷風が投影された「わたくし」こと大江匡は、小説『失踪』の主人公種田純平の行動と心理の取材と、隣の部屋のラディオがうるさいという理由の為、向島は玉の井の私娼窟で出会ったお雪という女性と出会い、足繁く数カ月通うことになる……。

この作品は、荷風の幾分厭世感にも近い、古き良き時代への懐古心というものが如実に表現されていました。現代的なもの、新しいもの、見掛倒しなものに、荷風は些か嫌気が差していたのでしょう。銀座などの東京の中心ではなく、浅草という東京の周辺地方に自然と向かう大江の様子を通しても、そういった感情がヒシヒシと伝わってきました。また、大江とお雪の関係性が非常に美しく、会話も綺麗で、本来あるべき日本人の情緒ないし人情を感じることが出来ました。経済的な利益に惑わされずに、おでん屋を開こうとするお雪の生き方にも、頗る共感しました。

話の途中で、話し言葉ならまだしも、本来「わたし」と書くところを「あたし」、或いは「だけれど」と書くところを「だけど」と書くことに、大江が抵抗感を持ってるという表現がされていましたが、私はそれを今の時代の、卑猥な言葉とも言えぬ言葉が氾濫したネット社会における書き言葉に対する、私個人の抵抗感と重ね合わせて考えてしまいました。昭和初期で既に失われつつある日本に危機感を覚えていた荷風が、現代の殆ど完全に欧米化された日本の様や、このネット社会で用いられている言葉を観たならば、一体どんな気持ちがするのでしょうか。

それと、谷崎の『痴人の愛』を読んだ時もそうでしたが、私は一時浅草で仕事をしていた為、場所を想像しながら読めました。そして何よりも、頻繁に埋め込まれている木村荘八氏の挿絵が、それを後押ししてくれました。いずれにせよ、短い中に、哀しく美しいノスタルジーを感じられる名著です。
静かな感情
★★★★2007-03-24
静かな感情が緩やかに流れている物語でした。東京の下町を舞台に老小説家とお雪との情の交流を綺麗に描いています。決して激しく交わることのない二人の感情。それが時間が進む上で近づいていきますが、決して交差することはないのです。
墨田川の辺で数多く起こったであろう、「綺譚」の一つ。昔の東京人の粋をいろいろな場面で感じることが出来ます。

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