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嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

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  • メーカー: 角川書店
  • JAN/ISBN: 9784043756018
  • 定価: ¥ 580
  • 売上ランキング: 5018 位
  • ★★★★★

カスタマーレビュー

三色に塗り分けられたかつての同窓生、そしてロシア国旗
★★★★★2010-02-16
 米原万里氏の死は早すぎた。世界は社会主義の崩壊を見た多感な少女の目線を永遠に喪った。

 「リッツァの夢見た青空」「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」「白い都のヤスミンカ」
この三色は、ロシア国旗の色では、「忠実」「勇気」「高潔」を表す(意味には諸説ある)。

 祖国ギリシアに強い憧憬と望郷の念を持っていたリッツァは、ドイツで暮らしている。
故郷は遠くに在りて想うもの。帰ってみれば、相容れない習慣や価値観がある。
異国でも、自分を必要とする人や、忠実な友がいる。彼女はそれこそを故郷とする。
そして、たとえ今いる場所が曇り空でも、確かに故郷の青空と繋がっているのだ。
衛星放送のアンテナが、力強くそれを証明する。

 ルーマニア人のアーニャは嘘をつき、その嘘を自ら信じ込む。矛盾や相違は見ないふり。
というより見えない。知識は彼女に新たな目線を与えるものではなく、目隠しにだけ利用される。
「国境なんて意味がない」と言いながら、「私の中のルーマニアは10%、90%はイギリス」などと、
国境に縛られまくりの発言をする。自分の恵まれた環境を自覚せず、母国の遅れを蔑む。
著者は心中の異議を口にしない。アーニャには現実を見る勇気が無いから。
嘘で塗り固めた幸せでも、アーニャは曲がりなりにも幸せなのだ。

 ユーゴスラビア出身のヤスミンカは、聡明で達観した少女だった。客観性を、恥の意識を持つ稀有な少女。
著者と少数派である悩みを打ち明け合い、無二の親友になる。
社会主義から冷遇された母国は、更に国家の分断、民族や宗教という寸断に晒される。
しかし彼女は、大統領の娘という立場に対する逆差別と闘いながらも、己の信念によって高潔に生きる。
結局、国家や民族や宗教を形作るのは、個人なのだ。少なくとも根本的には、個人である筈だ。

 ソビエト学校という組織の中において、多種多様な人物に邂逅した米原氏。
それらの細かなエピソードを掬い取り、この作品にまで仕上げた鋭く柔らかな感性。
あまりにも早く、その目は閉じられた。しかし彼女の作品は、永遠に人の胸を打つ。

 「ロシアでは才能はみんなのもの。妬み引きずり下ろすものではない」
世界中の国々が、人々がこうであったら、人類はもっと早くより良い世界に住めるだろう。
中欧・東欧のお国柄
★★★★2010-01-13
著者の趣旨とは反するのかもしれないが、著者の友人三人の人となり、行動、成長ぶりがいかにも中欧・東欧の各国の個性を反映しているように思えるところが面白い。社会に根づいた貴族制度(平等の軽視と格差の容認)というのは社会主義革命程度では消え失せないと思った。これは中国も同じですね。
最も複雑で陰影に富んでおり日本人には理解が難しいのが旧ユーゴスラビアだろう。旧ユーゴのイスラム系インテリ家族の気高さ、芸術への感性、悲喜劇は印象に残る。
国を超えて結ばれた友情、その強い絆に胸揺さぶられました。
★★★★★2010-01-04
 ギリシャ人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤースナ。著者が10歳から14歳の五年間を過ごしたチェコスロバキアのプラハ、その八年制ソビエト学校の親友たち。お互いにまだ子ども同士だった彼女たちとの交流と、彼らと三十年ぶりに再会した時のことを綴っていくなかで、民族意識と愛国心、それぞれの人生の変転が鮮やかに立ち上がってくるノンフィクション作品。

 <まだ一度も仰ぎ見たこともないはずのギリシャの空のことを、「それは抜けるように青いのよ」と誇らしげに>言うリッツァ。「あなたは、チースタヤ(純粋な、生粋の)ルーマニア人?」と、相手は軽い冗談のつもりで言ってるのに、目をつり上げて怒りまくるアーニャ。学校の地理の時間、見事なプレゼンテーションで祖国ユーゴスラビア連邦のことを語っていくヤスミンカ(ヤースナ)。異国の地にあるからこそ余計に、自国と自分の民族を誇りに思う子ども時代の彼女たち。日本人のマリの目を通して、そうした彼らの心情が生き生きと活写されていたのが、まず、素晴らしかったなあ。自分でもどうにもならない望郷の思い、自分を自分たらしめているアイデンティティーとしての民族意識が、後半の再会の場面へとつながっていくところ。読みごたえ、ありましたね。

 収録された「リッツァの夢見た青空」「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」「白い都のヤスミンカ」それぞれに、冒頭のシーンが何らかの形で三十年ぶりの再会のシーンにつながるところも、印象深いですね。<「ハハハハ、ザハレイドウが走っとるわ、走っとる」>という一行からはじまる冒頭の場面が、後半、奇跡の一瞬のように再現される表題作など、殊に魅力的。目頭が熱くなりました。ちなみに、ソビエト学校時代のアーニャが写った写真が、『ユリイカ2009年1月号 特集=米原万里』に載っています。

 でも、収録された三篇の中、私が最も魅力を感じたのは、おしまいの「白い都のヤスミンカ」でした。最初は近寄りがたい存在だったヤスミンカが、「ヤースナと呼んで」とマリに近づいてくる出会いのシーン、ヤースナのパパが語る思い出話(この話がまた、すごくいいのです)、「私の神様は、これ!」と言ってヤースナが突き出した北斎の絵。著者の心の中にあるヤースナとの色んな思い出が、後半、ユーゴスラビア連邦崩壊に端を発する多民族戦争の中にあって翻弄されるところ。はらはらしながら頁をめくっていくしかなかった。

 そして、三つの作品すべてで感じた、国も違えば民族も違うマリと彼女たちが再会するシーンの素晴らしさ、彼女たちが見せる喜びの大きさ。異国でともに少女時代を過ごした彼らの強い心の絆が自然伝わってくる再会の場面は、特に胸に迫るものがありました。
嘘をつくことで、アーニャが守ろうとした真実
★★★★★2009-11-22
 米原万里氏の書評は、池澤夏樹氏主催の Cafe impala で、以前から親しませていただいていた。彼女が亡くなって数年がたち、その圧倒的な表現力とグローバルな見識・知性とが、ますます稀有なものとなっているとの思いは、深まるばかりである。

 ところで、傑作『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は、著者の在プラハ少女時代の、ソヴィエト学校通学当時の3人の親友との交友、およびその後を、個人史的・見聞録風に綴ったことを縦糸に、東欧共産圏の社会的・政治的事情を横糸として描かれる。まったくの政治音痴のわたしには、たいへん勉強になる近代東欧史の復習でもあった。

 著者のクラスメイトであり、皆からも好かれていたアーニャ。彼女はたびかさなる嘘をつき、そうすることで、自己の夢への誠実、他者への配慮を守り抜こうとする。そこにはあきらかに、政治的に抑圧され、経済的に逼迫した人々の存在が、彼女のこころに重くのしかかっているという、心理的窮状がうかがわれる。支配者・被支配者のどちらに属そうとも、それは同じことであったろう。子供たちは、政治を理解する以前に、まず、自己の周囲の小さな社会内での軋轢を解消するために必死であるし、あるいは、嘘という方策を講じることのできたアーニャは、その点でめぐまれていた方かもしれない。アーニャは、そうすることで、何かいうにいわれない真実を守り抜いたのであるし、それは、美しい人生を思い描こうにも描けない、どうにもならない境遇の袋小路が、そうさせたにちがいない。

 それにしても、ロシア語通訳者、作家、エッセイスト、という米原氏の特異で稀な境遇の賜物たる本書を得ることで、わたしたちは、またひとつ、時代と歴史を俯瞰するたしかな視座をあたえられたような気がする。社会的システムと個人的人間のあり方のギャップに生じる不可避な軋轢と不幸を、つぶさにたどり感じることで、多くの人が、同時に個人として幸福を追求せざるをえないことの困難と不幸とを、ふたたび、わたしたちは素朴に考えさせられる。

 たしかに、嘘は悪いものではある。けれども、嘘をつくことでしか自分を守れない、アーニャのような子供たちは、今後もきっと、後を絶たないであろうし、そしてわたしたちも、積極的に嘘をつくことでしか、守れないものが、ときにはあるようである。アーニャに於いては、一見善良で根の深い嘘のつき方の一貫しているところが、彼女の人生と夢への向き合い方の誠実さを示しているようにもみえる。

有名な、フランソワ・ラブレーの言葉は、むしろ、アーニャにこそ、ふさわしいのかもしれない。

“三つの醜い真実よりも、一つの美しい嘘を”
おすすめ!!
★★★★★2009-10-27
作者がプラハの学校へ通っている時の友達3人との3つのお話。違う国籍を持つ人とこんな風に仲良くなれるんだ〜って感心しきり・・・。万理さんの歯に衣着せぬ書きっぷりの見事さに引き込まれあっという間に読んでしまいました!!面白かった〜〜。